いた。柱につかまって、何か忘れ物をでも探すように、一寸小首を傾げたが、何をするつもりか自分でも分らずに、電燈に歩みよって、二燭だったのを、ぱっと明るくした。頭がくらくらとした。まだ眼がよくさめないようでもあった。床の間の達磨が、大きく眼をむいて睥んでいた。その側に、細いしなやかな竹に革を巻いた鞭があった。彼はそれをとって、しゅっと空中に打振って鳴らした。それから自分の身体をひっぱたいた。寝間着をぬぎすて、真裸になって、ぴしりと打ってみた。痛みとは全く違う快感があった。股をひっぱたき、腹をひっぱたき、背中をひっぱたいた。小肥りの程よい肉附に、革の鞭は軽快な音を立てて、赤い筋を残した。痛くないのが不思議だった。彼は鞭の音に耳をすまし、皮膚に残った鞭痕に眼をとめ、そしてまたひっぱたいた。そして疲れてくると、突然、我に返ったように喉の渇きを常えた。そこで、鞭をなげすて、赤い縞のはいった身体に寝間着をひっかけ、没表情な顔付を硬ばらして、水を飲みにやっていった。足つきはもうしっかりしていた。

 中江はひりひり痛む身体を床の中に横たえていた。そっと撫でてみると、皮膚がところどころみみずばれに腫れあ
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