の肥った大柄の身体附、明るい笑い、どこか一徹な伝法らしい気質、でたらめのそそっかしい調子などに、そうしたものが見えないでもなかったが、彫刻を仕事としてる島村の審美心が、そんなものだけで満足してようとは思えなかった。問題は、もっと深い肉体的な機密に属することかも知れなかった。二日も三日も二人きりで一緒にいて、よくあの二人は倦きないものだと、いつか小耳にはさんだ仲居の言葉を中江は今更に思い出しては、一晩一緒にいてさえ、何か感傷的な支持がなければ、すぐに精神的にも肉体的にも反撥しそうになってくるキミ子との仲を、顧みて考えるのであった。そして変に考えこんだ眼で眺めると、三味線をかかえてる静葉の様子が如何にも朗かそうで、その向うには、ふみ枝の立姿が、しなやかな手先の曲線を無数に空中に描き出し、ゆるやかな裾のリズムを畳の上に滑らしていた。……※[#歌記号、1−3−28]どうぞかなえてくださんせ、妙見さんへ願かけて、かえるみちにもその人に……。
「中江さん。」
呼ばれて中江が振向くと、千代次がさもおかしくてたまらないというふうな顔付をしていた。
「よしきた。二人ともしっかりたのむよ。」
※[#歌
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