ていやにはっきりと公然としていた。彼は如何なる知人に対しても彼女との仲を隠そうとしなかったし、彼女も如何なる場合にでも公然と彼につきそっていた。彼女は平気で彼の家に出入し、彼の子供たちにまで馴染み、彼も平気で彼女を銀座の人中へまで連れ歩いていた。貧乏な彼がいつまでそんなことをしていられるものやら、また、抱えの身である彼女がいつまで彼一人を守って堅くしていられるものやら、その辺のことをどう考えてるのか、はたからは見当がつかない有様なのだった。それに、中江に云わすれば、どんな男にとっても、くろうととの関係は内緒にするのが当り前な筈なのに、まるで逆に、島村と静葉とは何の気兼ねもなく公然と振舞っていたし、顧みて、中江とキミ子とは明るみを避けるようにばかり振舞っていた。それは自然とそうなったのではあろうが、そうなるだけのものがどこかに潜んでるに違いなかろうし、それが分らないのだった。中江は淋しく惨めになりかかる気持をじっと抑えて、静葉の方を見やりながら、彼女のどこに島村を惹きつけるものがあるのか、探ろうとした。島村はいつだったか、彼女には田園的な朗かさがあると云ったことがあるが、そう云えば、彼女
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