記号、1−3−28]猫じゃ猫じゃと、おしゃますが、ねこが十二単衣をきるといな、ごろにゃん……までは普通で、それから中江は箸で皿や盃を叩きだした……ごろにゃん、ごろにゃん、ごろにゃん……。ふみ枝がいちばんに笑いだして、それからみんなも、腹をかかえて笑いだしたが、中江はたたき続けた……ごろにゃん、ごろにゃん……。
くたぶれてくると、中江は気持までぐったりしてしまった。島村はやはりのんびりした笑顔で、鮨がたべたいなどと云いだしたが、静葉が島村に何か囁いて出ていった後で、ひょっと真顔になって、この頃どうだい、と尋ねかけたのだった。そして話が落付いてきて、まじめな話題になると、島村も相当に口を利いた。生命を賭して仕事をするなどということは、人間にはあり得ないことで、自然の成行から、命をかけたように見える結果になるだけのことだ、第一、意志の力なんてものは取るに足りないもので、生きてゆく上の習慣が意志の力と見えるだけのことだ、というのだった。そこで、生活の様式から結果する自然の成行、云いかえれば運命というものを、僕は信ずる……。そういう意見に、中江は賛成する筈だったが、変に、島村に対しても気持がこ
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