りに小泉のことなどを尋ねかけるのだった。――「医学博士って肩書は、何んだかお爺さんくさくって、若い人には、却って損ね。」彼女らしい意見で、これから診察を受けるなどという気持は、遠くへ薄らいでいた。それに中江も引きこまれて、変に図々しいものを心の片隅に押しこんで、小泉の家まで来てしまった。出迎えた小泉は一切をのみこみ顔に、てきぱきと事を運んでくれ、それに対ってまたキミ子は、普通の話でもするような態度で、既往の身体の調子を述べ立て、そして二人で隣りの診察室にはいっていったのである。
――やはり来てよかった。病気でも何でもないかも知れない。
そんなことを、煙草の煙の間にぼんやり考えるほど、中江は落付いていた。診察が手間取るのも気にならなかった。そしてやがて、診察室から出て来た小泉の言葉もそれを裏書してくれた。
「別に何でもないようだね。尤も、一回みただけではよくわからないけれど……。」
それを逆に、一回みてよく分らないくらいなのは大したことでないと、そういう態度で、煙草をふかし、看護婦をよんでお茶などを勧めるので、中江も益々いい気になっていった。そこへ、衣服をなおしたキミ子が勢よくとび
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