うちにでも遊びに行くといった調子になった。身体のことなんか自然に任せておけばよいので、ただ生きていて……そして働いてさえおれば……というのが彼女の平素の主張で、医者にかかることなどは贅沢となる、その贅沢が、今となっては、小泉のところへ――診察は第二として――中江と二人で行くという、或る物珍らしさのために、解消された形だった。だが、中江にしてみれば、彼女が時々胃部や腹部に鈍痛を感じ而もその鈍痛があちこち移動することや、また胸部に圧痛を覚えたりすることなどが、彼女の健康の全般的の衰微を暗示するように思われ、どこか一定の箇処の病兆よりも、一層気にかかるのであった。そうした彼女が、病気なんかどうでもよいと、ふだんは投げやりな態度をとっていて、さて、中江が一緒に小泉のところへついてきてくれるとなると、わりに容易く承知してやってくる、そのことが、中江の心にはひしと、重荷みたいになって感ぜられるのだった。その重荷を背負って、而も自宅からのように装って、昨夜の二人の宿から電話をかけて、昨夜のままの肉体を運んできたのである。キミ子にとってはもう、昨夜からのことは跡形もなく、今日は今日といった調子で、しき
前へ 次へ
全43ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング