切ってしまった。室の真暗な中に、私は一人置きざりにせられたような気がした。その時電気が来た、俄に明るくなった。私達は互の視線を避けた。すると――ああ、女のでたらめな口先よ!――秀子は急にこう云った。
「硝子をはめさしても宜しいんですか。」
「はめないでどうするんだ!」と私は答えた。
「じゃあなぜ早く仰言らないの。」
「お前の方が黙ってるじゃないか。」
何だか馬鹿々々しかった。馬鹿々々しい気持ちが動いてきた。そして、それが喧嘩の終りだった。私達はまた口を利き出した。万事が平素の状態に返った。その上、この余りに妥協的な不自然な和解は、感覚の陶酔によっても助けられたのである。
斯くて私の決心は、いつのまにか泡沫のように消え去ってしまった。消え去るのが当然だった。私の内心は寧ろそれを望んでいたのだから。私にとっては、彼女の性質を矯正したいという欲求よりも、彼女を所有したいという欲求の方が、より直接でありより強いのであった。そして彼女を殴ったことによって、私は終局彼女に武器を一つ多く与えたのみだった。
秀子は私に右の頬を殴られてから、その奥歯が痛んで止まなかった。――彼女は美事な歯並を持っ
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