。暫くして尋ねだした。
「何が気味が悪いんだ?」
彼女は黙っていた。
「千代子さんの夢をみるのが気味悪いのか。」
彼女は身動きもしなかった。
「僕が千代子さんの夢をみるのが気味悪いのか。」
彼女はやはり身動きもしなかった。
「何が一体気味悪いんだ?」
彼女はじっとしていた。
私は急に気が苛ら立って来た。どんなことを自分が仕出かすか分らないと思った。じりじりと時間が迫ってゆくような心地だった。私は叫び出した。
「云わないのか。何が気味悪いんだ? 黙ってると僕はどんなことをするか分らない。どんなことになるか分らないんだ。云ってごらん!」
彼女は冷たい没感情的な声で云った。
「あなたの様子が気味悪いんです。」
「僕の様子が?……」
私は続けて何か云ってやろうと思ったが、言葉が見付からなかった。じりじりしてきた。然し、私はその時、自分がやはり仰向に寝たままなのを気付いた。仰向にじっと寝たままで叫んでる自分の姿が、私の心にはっきり映じた。そのことが苛ら立った感情を引き緊め澄み切らして、其処に喰い止めてしまった。私は意識が中断されたような透徹した心地になった。彼女は半身を起したままじ
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