である。些細なことから私達は口論をすることがよくあった。二三日後まで反抗的な沈黙を守るほど激しい口論も、何度かくり返されていた。所が此度そういうことが起ったら、もう掴み合いに終るの外はないように思われた。幾度も抑えに抑えられた暴力が、既に飛び出した後だからである。而もそういう暴力の結果はどうであるか? 責任が私一人にかかってくるのみである。彼女は「女である」という便利な楯を持っている。一歩も譲らないで私につっかかって来たこと、不条理に苛ら立ってきたこと、そういう微細な――実は最も重大な――問題は、「殴られた」という事実の背後に影を潜めてしまう。そして「殴った」という責任が全部私の上にのしかかってくる。喧嘩の瞬間には、男も女も対等に――否多くは女の方がより攻勢的に――相対抗するものであるということを是認しても、殴る殴られるという結果の差は、溯って男を非難しがちである。動機の如何に拘らず、強い方が不当だと常に結論されがちである。私はそういう不条理な損害を受けたくない、そういう危い境地へ踏み込みたくない。それには、彼女に折れ屈むことを教えて置かなければいけない。彼女の心を挫いて置かなければい
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