された。
選択を誤ったのならば、何処かに本当の選択が残されてる筈だった。私は秀子と別れるという考えをはっきり意識せずに、結果を予期せずに、残された選択を探し廻った。街路を彷徨する私の眼は更に執拗になっていった。ああ、理想の女を探し求める、それほど馬鹿げたことがあるだろうか! 理想は常に理想として止るのだ。それは単に吾々の方向を指示するだけで、到達せらるる距離に在るものではない。然し私はそんなことをはっきり考えなかった。運命づけられた「自分の半分」の存在を、現実に信じていたのである。失望は当然だった。私は如何なる女にも理想の女を見出さなかった。そして更に悪いことには、秀子よりもよりよく理想の女に近い者を、多くの女に見出したのである。
昏迷しきった気持ちで夜遅く帰って来ると、秀子は子供に添寝しながら、鎖骨のとび出た胸をはだけたまま眠っていた。もしくは眠ったふりをしていた。朝眼を覚すと、彼女は自分の蒲団に戻っていたが、額には四五筋の髪の毛が、ねっとりとこびりついてることがあった。夜中に夢にでも魘《うな》されたのだろう。その髪も産後の抜毛に薄くなって、生え際が妙に透いて見えた。起き上って髪
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