よく見ると不相応に大きかった。その上、上歯と下歯とがかち合って先端で平らに合さってるために、下唇が少しつき出て残忍な相を作り、それに圧迫されて上唇が萎縮していた。――それを包むふっくらとした頬は、肉が落ちたために深い皺を皮下に刻んで、笑う時や緊張した時に、その皺が表面に現われて来て顔全体を卑しくした。――頸から肩から上膊へなだれ落ちてる線は、しなやかで繊細だったが、その先を辿ってみると、腰と腿との間に急な曲線を拵えて、そのまま足先へかけてすぼんでしまい、全体の立像に不安定な危さがあった。手甲の面積に比較すると手指がわりに長いのに、指先がつぶれたように太くて、爪は縦の長さよりも横幅の方が大であった。そのために、元来は美しかるべき手全体が屋守《やもり》のような感じを与えた。そういう彼女は、殆んど一時間置き位には必ず、時には極めて頻繁に、鼻の両側に大きな皺を寄せて顔を渋めながら、簪か櫛かを髪の間に差込んで頭を掻いた。――甘えた調子の時には、上半身をうねうねと揺らしながら、宛もお手玉でもするような調子で左手で袂を弄んだ。屹となった時には、身体を固く保ちながら、両手を一緒に持ち寄って無意識的に指
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