あったが、それでもそういう反目は、お互に一つの根で繋ってるという意識から来る苛ら立ちで、繋りながら争ってるという苛ら立ちで、助長せられたものであった。所が今や、二人を結びつける根が断たれたような冷かさが、互に別個なものになったというような無関心さが、二人の間に挾まってきたのである。濡いのない言葉――感情の籠らない言葉を、互に時々交しながら、或る破滅を期待する恐れで、心を固く鎖していた。
 それが私には堪え難かった。家庭に於ける彼女の圧迫から来る息苦しさは、前方に破滅を予期する息苦しさに変っていった。而も彼女の弁解――あの場面《シーン》の中心問題――に再び触れることは、益々お互の心を遠ざけるもののように感ぜられた。「どうにでもなるようになれ!」そう私は半ば悲壮に半ば捨鉢に考えては、やはり外へ飛び出すのであった。私の心の底に、彼女と別れてそう惜しくはないという気持ちが流れているのを、私はまだ気付いていなかった。家に帰って来ると或る不安な恐れが私を囚えた。然し彼女は家の中に澄し込んでいた。道子のことをも再び云い出さなかった。
 私の足は長谷川の家から次第に遠のいていった。人から疑われることに
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