はる」に傍点]にさしたらいいじゃありませんか。私ばかりを使わなくたって……。」
 私は声を荒らげないではいられなかった。彼女の方には私の反感が感染していった。一度争論を初めると、問題は拡がるばかりだった。醜い反目が生ずるばかりだった。
 初めからはる[#「はる」に傍点]に頼むつもりなら、私はわざわざ秀子に頼みはしない。夜の珈琲一杯が私の気分に如何なる意味を持ってるかは、彼女も知ってる筈だった。私は彼女の全部で私に仕えて貰いたかった。私の方でも、私の全部で彼女に臨んでいた。然し彼女は私の方へ背中を向けて、子供の方へ向いていたのである。私はそれが不満だった。私に対する彼女の愛情が疑われだした。
 彼女は私に対して、殆んど愛情の直接な表現を見せなかった。愛情を見せる場合には、多くは子供を通じてであった。「あなた」というやさしい二人称は、「お父さん」という距てある三人称に変えられていた。私に送るにこやかな眼付は、子供の笑顔に促された余波であった。私の意を迎える時には、子供が私の前に差出され、彼女の眼は先ずその子供の方を顧みていた。私達の生活は自由恋愛を貫き通した結果だっただけに、かかる変化が私
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