には殊に鋭く感ぜられた。
 然し私は、恋愛生活をいつまでも続けたいのではなかった。恋愛は常住の性慾であると思っていた私は、子供を設けた後までも恋愛に耽るつもりではなかった。けれども、私達の生活は何処までも愛の生活でなければならないと、私は信じていた。そして、愛は常住の心の抱擁であると思っていた。もし彼女の心が私の心より外の物に向けられる時があるとすれば、私達の愛はそれだけ不完全になるわけだった。所が彼女の心は、私の心から殆んど常に外らされて、子供の方をばかり向いていたではないか! 而もそれは私達の子供である。私の可愛いい子供、また私にとっては、彼女の一部分たる子供!
 私はこの気持ちを、子供に対する嫉妬だと名付けていいかどうかを知らない。然しそれより外に云いようはないような気がする。秀子に対する憤りを、子供にまで蔽い被せねば止まない私の心は、如何に醜いもので毒されていたことであるか! そして子供の唇を吸い、子供の頬をなめる私を、じっと見ている秀子の皮肉な眼付の前に、私は幾度慄然としたことであろう! それでも私はなお、子供の可愛いい唇や頬に慕い寄っていった。すると秀子は荒々しく、私から子
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