に困ることがよくあった。それでいつも紙巻は一箱ずつ買わして置いた。所が一箱の煙草が非常に早く無くなってしまった。私は驚いて少し節制しようと考えた。秀子も常から煙草の毒を説いていた。然し俄に量を減ずることも出来ないので、私ははる[#「はる」に傍点]にまた一箱買うように命じた。所がその一箱は中々買われなかった。そして古い箱の中に、もう空である筈の箱の中に、二袋か三袋かの煙草がいつもちゃんと並んでいた。それも策略だったのだ。秀子とはる[#「はる」に傍点]と二人でした策略だったのだ。私はいつのまにか、意志の上での無能力者として取扱われていたのだ。……そういうことが相次いで起ると、私は自分の云い付けがはる[#「はる」に傍点]に少しも徹底しないような不安を感じだした。私の命令は、途中ではる[#「はる」に傍点]と秀子との商議に上せられ、そしていい加減に勝手に取計らわれるらしかった。この不安が次第に私の頭へ深くはいり込んできた。そして遂には、はる[#「はる」に傍点]に用を頼むのも遠慮しがちになった。何たる馬鹿げたことであったか!
 斯くて私は子供を奪われ、女中を奪われて、孤立の自分を見出したのである。
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