権利を奪おうとした。
 子供が出来ない間は、女中は少くとも、彼女の女中でありまた私の女中であった。然しそれも何時の間にか、彼女の女中となってしまったのである。
 私は夕食の時に、時々酒を飲んだ。可なりいける方だったので、その時の気分によっては三合位飲むこともあった。自宅で三合飲むと可なり酔った。酔うと、子供に戯れたい欲求が――彼女の所謂不条理な子供いじめの欲求が、更につのるのであった。彼女はそれを嫌った。そしてなるべく晩酌の量を少くしようとした。私はそれに対抗して云い張った。彼女もしまいには我を折って、では少しと云いながらはる[#「はる」に傍点]に燗をさした。所が持って来られた銚子の中の酒は、余りに量が僅かだった。私は更に燗を命じた。すると、「まだあったかい、」と秀子が尋ねることもあった。「もうおしまいでございます、」とはる[#「はる」に傍点]が先に云うこともあった。そして二人はちらりと目配せをした。私はそれを見落さなかった。酒がまだあることをも知っていた。然し彼女等二人の間には前から相談が出来ていたのだ。私はどうすることも出来なかった。――私は煙草が非常に好きで、夜更しをしているうち
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