三
さて、ある日、空にむくむくと入道雲が出てきて、それがふくれ上がり延《の》び広がり、やがて空一面まっ黒になって、ざあーっと大粒《おおつぶ》の雨が降り出し、ごろごろと雷が鳴り始めた時、長者は庭の隅《すみ》のあずまやの中に出ていきました。そして、庭の大木に仕掛けた網の綱を足でふまえ、いざといえばすぐにその綱を引っ張って網を落とすようにして、それから、大きな金の日の丸の扇をあずまやの軒《のき》から差し出して、空に向かって両手であおぎながら、雷の神を招き落とそうとしました。
扇には油が引いてありましたから、いくら雨に濡れても平気でした。ざーざーっと降る雨の中にも、金の日の丸はぴかぴか光りました。雨が少し小止《こや》みになって、雷が激しくなってきますと、ぴかりとする稲妻《いなづま》の蒼白《あおじろ》い光りを受けて、濡れた金の日の丸が、なお一層輝いてきました。
雷《らい》の神は空の黒雲の中からふと、金の日の丸を見つけました。
「おや」
そして自分の好きなそのぴかぴかした赤いものにひかされて、そこへ落ちようとしかけましたが、仕掛《しか》けがしてあることを思い出しました。
「うっかりあ
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