都会は悠然と、夜の化粧を初めていた。
 ――俺の方は腹ごしらえだ。なるべく簡単にそして滋養分の多いものを……。
 高い白い天井、行儀よく並んだ真白な卓子、水打った鉢の樹木、その中に彼は腰を下した。定食を避けて、気に入った料理を四五皿、それにビール……。
 粗らな客……ボーイ達……それがみな赤の他人の、南瓜を並べたのと同じ頭ばかりだった。がその中で、向うの隅っこの卓から、俯向いてる一つの横顔が、次第にまざまざと浮出してきて……武田啓次……はっきり分った。
 ビールのコップを前にして、石のようにじっとしていた。
 ――気がつかないのかな。
 佐野は立っていった。
「おい」と肩を叩く気勢で、「どうしたい。」
 友人を迎える彼の笑顔に向って武田は夢からさめたような顔を挙げた。
「やあー。」
「暫くぶりだね。」
「うむ。」
「どうしてるんだい、其後……。まあ、あっちの卓子に来ないか。」
「そう。」
 気の無さそうなのを、佐野は構わずにボーイを呼んだ。そして、卓子を挾んで向き合ってみると、一寸、極りがつかなかった。
 佐野の家に赤ん坊が生れたのと、武田が細君を――正式の結婚ではなかったが同棲して二
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