、敏子は坐ったまま、冷い一瞥で彼を迎えた。そしてそのままの眼付で、子供の方を指し示した。
「え、病気か。」
 水枕の上の頭が、かっとした、底力のある粘っこい熱さだった。それと変に不調和に、不気味なほどに、安らかな静かな息使いだった。そして昏々と眠っていた。小皺の多い唇が乾いていた。
 夕方まで元気だったのが、八時頃から、俄に燃えるように熱くなって、ぐったりしてしまった。三十九度三分の熱だった。医者が来た。神経性の発作的な熱かも知れないが、も少し経過を見なければよく分らない、そう云って、透明な水薬をくれた。一切乳を与えないで、渇く時にはその水薬をやるのだそうだった。――敏子は低い声で、棒切のような話方をした。
「どこに行ってらしたんです。武田さんまでが心配して待ってて下さるのに…。」
「え、武田が…。」
 佐野はどこに行ったとも答えなかった。着物を着換えに立上った。
 茶の間で、武田はぼんやり煙草を吹かしていた。
「君にまで心配をかけちゃって……。」
「なあに……。」
 話のつぎほがなかった。
「ひどいのかしら。」
 武田は敏子と同じようなことを云った。ひどく不機嫌そうだった。
 佐野は
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