。
――赤ん坊は、変に股が太って足先が痩せて、腕が痩せて手先が太ってるものだ。
――赤ん坊の眼は、澄んではいるが、本当の美しさは少い。唇は醜い。一番美しいところは手足の爪だ。
――赤ん坊の無意味な声音は、時によって、ひどく表情的だったり、没表情だったりする。声音に表情が多い時ほど、精神活動が盛んなのだ。
――赤ん坊には全く果物みたいな匂いがある。匂いの強い時ほど栄養がいいのだ。
――赤ん坊の声音の表情と身体の匂いとが大抵反比例するのは不思議だ。栄養がいいほど精神活動も盛んな筈だが、或いは、栄養がいいと精神的欲求がとまるのかも知れない。
――赤ん坊の皮膚は、産毛ばかりで、黒子《ほくろ》も雀斑《そばかす》も全くない。
佐野には黒子が多かった。敏子には薄い雀斑があった。
「ははは、坊やを僕達と比較して見てるんだね。」
「武田さんにだって、随分雀斑があるじゃありませんか。色が黒いから目立たないけれど……。」
「だが、そんなにくわしく坊やを観察して、どうするんだろう。」
「だから、坊やに惚れこんでるのよ。」
「冗談じゃないよ。」
実際冗談じゃなかった。家庭内の秘密まですっかり発か
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