坊だか一つ見てやれと、そんな気になって……。」
「すると、案外上等だったってわけか。」
佐野は首を縮こめて苦笑したが、武田は落付払っていた。
「上等だかどうだか、そいつあ分らないが……一体赤ん坊というのは、素敵なものなんだね。」
「どうして……。」
「全く自然で生々としてる。」
「当り前じゃないか。」
「然し、随分いじけた赤ん坊だってある。」
「そりゃあ、病気なんだろう。栄養不良とか、どこか悪いとか、兎に角健全じゃないんだ。健全な赤ん坊なら、どんな赤ん坊だって、自然で生々としてる筈だよ。一番生育の盛んな、伸び上ろう伸び上ろうとしてる時なんだから……。」
「いや僕は精神的に云ってるんだ。」
「精神的にだって、肉体的にだって、赤ん坊にとっちゃ同じじゃないか。つまらない解釈なんかつけるから、変なものになっちまうんだ。」
云ってるうちに佐野は突然腹が立ってきた。何物とも知れないものが、胸の底で湧き立ってきた。
「別に解釈をつけ加えるってわけじゃないが……。全く分らない世界なんだからね。」
「分るも分らないもない、ありのままの世界だよ。」
暫く黙ってた後で、佐野は敏子を呼んだ。
「え、なあ
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