っている。それらの文字の代りに、一人でいいから、天女のようなマネキンガールをくっつけたら……。そしてビラを撒かせるのだ。綺麗な五色のビラだ。銀杏の葉のようなビラだ。晩秋、空が蒼く冴え返って、冷かな寒風が街路に踊り狂ったことがある。大きな銀杏の並樹が聳えて、黄色い葉に蔽われている。その葉が突風にもぎとられて、無数に乱舞する。地面も空中も一面に、真黄色な渦巻だ。そして四五時間のうちに、銀杏の並樹は蒼空の下で半ば裸になってしまった。あんな風にするんだ。羽衣をつけたマネキンガールをあらゆる人が驚異の眼で見上げる。とその乙女の手から、銀杏の葉の形をした五色のビラが、無数に降ってくる。それを拾ってみない者は、馬鹿か偽君子だ。すばらしい広告的効果がある。街路樹が黄色い葉を撒き散らしてよいとすれば、天女が五色のビラを撒き散らしたとしても、警視庁で文句のつけようはあるまい。人体では気球に重すぎるとするなら、軽いロボットを考案すればよい。このロボットの考案者は、素敵な金が儲かる。そんなことを僕は考えていたのだ。それを邪魔した声の方を振向くと、張子のような顔が真正面にこちらを向いている。色素が余って血液が足
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