毒をでもあおるように酒を飲む彼女の酔態かも知れない。なぜなら、真面目な時の彼女には僕は少しも心惹かれなかった。病気前から知り合いなので、どこから聞いたか彼女は、二三度病院に見舞って来たことがある。束髪に大島や或はじみなお召などを着て、小さな果物の籠や草花の鉢をさげてきた。いかがとか、いけないわねとか、お大事にとか、そんな通り一遍の挨拶より外に、何にも云うことがなかった。白粉のうすい顔の皮膚に妙に水気が乏しい。硝子窓の外の植込に雀が鳴いてるのを、珍らしそうに眺めている。ベッドからその姿を見ると、実際よりも背の低い小ちゃな冷い感じだ。そして十分かそこいらで彼女が帰っていくと、僕は何かしらほっとした気持になる。がその後でまた、しきりに彼女のことを考えてる自分自身を見出したものだ。僕の病気平癒を祈って酒を断ち、所在なげにお座敷をつとめてる彼女の姿までが、幻のように浮んでくる。
退院後、僕は出来るだけ早く彼女に逢いに行った。彼女は一寸びっくりしたらしく、それからしみじみと僕の顔を眺めた。
「でも、よくなおったものね。二度も危かったそうじゃありませんか。」
それが、喜びや嬉しさではなく、ただ不
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