新民会支部の一隅に、李村医療所というのがあって、三四人の日本人が農民の診療に当っている。若い人たちで、女性も一人いる。この人たちは金光教の信者で、感ずるところあって支那農民の中にとびこみ、殆んど独学で医療の知識を修め、乏しい薬剤で治療に従事している。その献身的努力には涙ぐましいものがある。
 北京の天理教支部でも、医療の方法で民衆に近づき、既に若干の支那人信者を獲得しているが、この李村医療所の人たちは、医療が主で、金光教布教は殆んどやってないらしく、その純真さにまた民衆の信望の濃いものもある。
 布教による民心獲得も重要なことであるが、医療は先ず何よりも当面の必要事である。農民の子供たちがにこにこして、李村医療所で治療を受けてる光景は、将来への大きな希望を与えてくれる。
      *
 済南には紅卍字会の母院がある。百二十万の金を投じて近年出来上った豪壮な堂宇で、種々の室内の什器も、或は簡素に或は豪華にその処を得ている。
 この紅卍字会は、現在三百万の会員を有すると云われているが、それが大抵富有な上層階級の人々ばかりである。会員からの寄付金などは如何程でも集め得るらしい。或は一種のフ
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