で、広い中庭をかこんで廻廊があり、廻廊に面して小房がずらりと並んでいる。二階から上のそれらの小房が遊女たちの室である。最上階の六階が最も高等なものとされ、ここにいるのは娼妓というよりも寧ろ芸妓であろう。客があれば鈴が鳴らされ、その階の二三十人の美女たちが、料亭に呼ばれて少数を除いた全部、客の前に立並んでその選択を待つ。選ばれた女は客を小房に案内して、お茶を供し談笑する。鈴が鳴ればまた駆け出していって、新たな客を他の房に案内する。客は茶をすすり水瓜の種をかじりながら、一時頃までも気長にぼんやりしている。この小房の一つで雑役をしている前記の女が、四十すぎた例外の美人で、水のしたたるようなその色っぽさは、そこの年若い芸妓のいずれを持ってきても足許にも及ばない。
北京の前門外の暢園茶社には、大勢の客が茶を飲みに行く。正面に小さな舞台があって、若い女たちが楽器を鳴らし、歌をうたってくれる。合唱がすんだあと、客の名指しの女が独唱する。そしてここには、至極の年増美人の代りに、至極の銘茶がある。
*
青島から少し離れた李村というところは、未だに時々匪賊の出没する危険が去らないが、そこの
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