ら読まれているという気持になるのであろう。ところで、物を書く以上は、書くに足りるだけのものを書きたい、というほどの覚悟は誰しも持ってることだし、そうした仕事の上の心構えが、不知不識にのぞきだすのであろう。
「然し、」と友人は断乎として云う、「そんなことでは、よい作品は書けない。書かないでもよいようなものを書くのは、固より愚劣だが、よいものを書こうとする緊張感は、却って創作の邪魔になりはしないかね。緊張感のために硬ばった作品が余り多いじゃないか。」
さてそれは、分るような分らないような……私は一寸彼の顔を見守ったものだ。
*
「君は象皮病というのを知ってるだろう。」と友人は別なことを云いだした。
その象皮病に、彼のうちの小猫がかかったことがあるというのだ。初めは単純な一寸した皮膚病くらいに思っていると、だんだん広がるに随って、毛がぬけてくる、皮膚に皺がよってくる、そしてその皺んだ禿げた皮膚が、こちこちに固くなって、丁度象の皮膚のようになってしまった。そうなると、もう回復の途はない……。
「作品だってそうだろうじゃないか。」と彼は云うのだ。書こうという気構えからくる一種のポ
前へ
次へ
全9ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング