芸術的作品を分つ感じ、謂う所の芸術味、それはみな、作品が宿してる作者の心境から来る。
心境とは心の――魂の――境地である以上、さまざまの種類がある。或は歌い、或は叫び、或は黙し、或は穿鑿し、或は静観する。然しそれには常に生きた血が通っている。思想は頭の働きであり、感情は心の働きであるけれども、心境はそれらのもの一切を含めた生きた世界である。
芸術上の作品は、人のどの部分かの働きによって出来るものではない。作者の魂が住んでる生きた世界から醸されるものである。
或る心境に腰を据えて書かれたのでない作品は、単に表現の技巧と材料に対する興味興奮とだけで出来上っている。
表現の技巧は作品に生命を与うるものではない。材料に対する興味や興奮もそうである。
そういうものばかりで出来上ってる作品は、外見は如何に巧みであり力強くあろうとも、実質は無味乾燥で上滑りがしていて、生命の気が籠っていない。
レアリスムの作品を生み出すのはレアリスムの心境であり、ロマンチスムの作品を生み出すのはロマンチスムの心境である。ヴェルレーヌの作品を生み出すのはヴェルレーヌの心境であり、ドストエフスキーの作品を生み
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