して妻を愛していながら、どうしても彼女の面影を払いのけ得ないこと、などを長々と書きました。次に、妻との間が気まずくなってることを少し書きました。それから、けれど自分は今長い苦しみの後に、或る晴々とした所へ出られた、危険の恐れなしにあなたと交際し得られる自信がついてる、やがては妻の心も解けて、あなたのお友達になるかも知れないと思う、というようなことを書き、但し当分のうちだけは訪問を止してほしい、そして士官学校宛に手紙を頂きたい、と述べておいて、けれども私の告白があなたに不快ならば、あなたに苦しみをかけるならば、このままお別れするか否かは、あなたの自由にしてほしい、と手紙を結んだものです。
実際僕は、他愛もないことを空想していたのです。自分の愛を葬ってしまって、彼女と普通の交際を続け、やがては妻をも加えて、三人で親しい友達になる、というのです。そして、士官学校では手紙を自宅へ回送しないで取って置いてくれるものですから、そちらへ手紙を貰うことにしたのです。……それから、僕の心持のうちには、自縄自縛する気もあったでしょうし、凡てを彼女の手中に託して捨鉢になる気もあったでしょうし、其他何だか自
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