に、或るものに縋りついたのかも知れません。九州と聞いて、実際島流しにでも逢ったような気がして、闇の中へでもはいって行くような気がして、そのために光が欲しくなったのかも知れません。いえ、それよりも寧ろ、前からその光を受けていたのが、突然はっきりしてきたのかも知れません。……と云うよりやはり……。」
云いかけて彼は急に口を噤んで、暫く室の隅を見つめた。それから一変して、半ば皮肉な半ば自嘲的な調子になった。
「もう止しましょう。そんな詮議立てをしても無益ですから。どっちだって同じことです。兎に角私は今、率直に云えば、或る女に心を惹かされているんです。その気持の上の引掛りが取れるまで、もう四五日、返事を待って下さいませんか。」
「じゃあ、あなたはやっぱり……。」と達子は叫んだ。
が昌作は云ってしまってから、非常に不快な気持になった。何故だか自分にも分らなかった。もう何にも云いたくなかった。
「それならそうと、初めから仰言ればいいのに。」と達子は云い続けていた。「私も或はそんなことではないかと薄々感じてはいたけれど、あなたがあんまり白を切ってるものだから、ついいじめてもみたくなったのよ。ごら
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