留めてるものがあるんです。実は私は何にも云わないで、すぐにも承諾して九州へ行きたかったんです。仰言る通りどの点から考えても、私は九州へ行った方がいいんです。第一自分で自分に倦き倦きしています。今迄のように目的のない生活は、いくら私にでも、そう長く続けられるものではありません。初め片山さんからそのお話を聞きました時、私は何だか新らしい生活が自分の前途に開けて来そうな気がしました。所が行ってみようと思った瞬間に、急に堪らない淋しさに襲われたのです。自分でどうにも出来ない淋しさなんです。その時まで私は自分でも知らずにいましたが、私の心は或るものに囚えられていました。その或るものが、私にとっては太陽の光でした。いえ、前から……前からじゃありません。その時からです。東京を離れて九州へ行こうと思った瞬間からです。そして自分で自分に口実を拵えるために、片山さんの気持に、あなた方の気持に、いろんな疑いを挟んでみたのです。そうです、私は行くのが本当だと知っていながら、行かずに済むような口実が欲しかったのです。いやそればかりじゃありません。九州というのが余り思いがけない土地だったものですから、淋しさの余り
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