とみえて、――後でぽかりと記憶に浮んできたのだった。――然し彼は、別に殺意……もしくは敵意を、はっきり懐いたのではなかった。一方には、却って反対に、絶望に陥った瞬間、彼は或る広々とした――真暗ではあるが広々とした――境地へ、自分が突然投げ出されたのを感じた。暗いなりに静まり返って落着いてる空間だった。黙り込んで煖炉の火を見ていた時、彼はそういう自分自身を見守ってたのだった。――以上の二つのことが、彼を力強く支配していた。彼は宮原俊彦の住んでる町と反対の方向へ行くつもりでありながら、知らず識らずその町へ来てしまったのである。
来てしまって、その町名に気がつくと、彼は慴えたように立止った。一切のことが――前述のようなことが、初めて彼の頭にはっきりと映《うつ》った。その瞬間に、云いようのない感情が胸の底から湧き上った。宮原俊彦に対して、今迄の敵意と同じ強さで、情愛……思慕に等しい友情が、高まって来た。その同じ強さの敵意と友情とが、不思議にも二つながら、彼を俊彦の家へ引張ってゆこうとした。俊彦の家を探しあてて、その胸を刺すかもしくはその前に跪くか、何れかに彼を引きずり落そうとした。然し彼は、
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