彼は宮原俊彦の家と反対の方へ行くつもりだったが、途々もそうするつもりだったが、いつのまにか俊彦の家のある町まで来てしまった。
実は、彼が沢子と向い合って、「宮原さんがいなかったら……。」という件《くだり》の会話を交して、彼女の惑わしい眼付を見た瞬間、彼の頭はまるで夢の中でのように迅速な働きをしたのだった。最初に、もう到底沢子は自分のものではない、如何なる事情の変化があろうとも、彼女の心は自分の有にはならない、ということを彼は知った。次に、自分の生活が暗闇になって、もう何にも拠り所がなく、再び立て直ることがない、ということを彼は感じた。次に、もし宮原俊彦さえなかったら……ということ――沢子の「ない」という言葉を「存在しない」という言葉に変えた意味、それが、暗い絶望の底から、一条の怪しい光となって、彼の頭にさしてきた。そしてこの最後のことが、彼の胸深くに根を張ったのだった。それが、また偶然の事情によって助けられた。彼はこれまで宮原俊彦の住所を知らなかった。所がその晩、沢子へ宛てた葉書を表までもよく見調べてるうちに、そこに書かれてる町名――番地は記してなかった――が、いつしか彼の頭に残った
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