あの晩?」彼は沢子の顔をちらと見やった。「宮原さんの述懐を聞いたよ。」
「述懐って?」
「君と宮原さんとの物語さ。」
 沢子は少しも驚かなかった。
「それからすぐに帰って寝たよ。」
「いえ、その外に……。」
「何にも話しはしなかった。もう遅かったし、宮原さんの話が馬鹿に長かったからね。そんなに話が出来るものか。」
「じゃあほんとにそれきり?」
「可笑しいな。何がそんなに気にかかるんだい。宮原さんには君が僕を紹介したんじゃないか。」
「でも、何か……むつかしい話をして、それであなたが苦しんでなさりはしないかと、ただそんな気が私したものだから……。」
「そりゃあ、苦しんだかも知れないさ。」と不機嫌に云いかけて、昌作はついむきになった。「ほんとに苦しんだよ。いくら考えても分らないからね。」
「何が?」
「何がって、僕にも分らないよ。何もかも分らなくなってしまった。何もかも駄目なんだ。もうどうなったっていいさ。」
 そしてまだ云い続けようとしているうちに、誠実とも云えるほどの沢子の眼付に彼はぶつかった。変に気が挫けて、先が続けられなかった。そして暫く黙ってた後に、馬鹿々々しい――その実真剣な―
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