」
「令嬢じゃないんです。」
「でも若い女なんだろう?」
「ええ。」
禎輔はまたそれきり黙り込んでしまった。昌作は不安な予想に駆られて、苛ら苛らしてきた。
「急なお話って、どんなことですか。」
「君は、僕がなぜ九州なんかへ君を追いやるのかと疑ったね。」
禎輔は急に額を曇らせながら、ゆっくりした調子で云った。昌作は喫驚した。そして急いで弁解しようとした。その言葉を禎輔は遮った。
「君が疑うのは道理《もっとも》だよ。そして、実は、君がその疑いを達子へ洩らしたために、僕は可なり安心したのだ。うち明けて云えば、僕は達子に暗示を与えて、君の心を探ってみたのさ。すると、達子がうまくその使命を果したというわけだよ。」
昌作にはその謎のような言葉の意味が更に分らなかった。禎輔はまた云った。
「君が達子へ向って、片山さんはなぜ私を九州なんかへ追い払おうとなさるんでしょう、と云ったことと、それから、君に若い恋人《ラヴァー》があるということとで、僕は自分が馬鹿げたことに悩んでるのを知ったのだ。そして、いろいろ考えてみて、一層何もかも君にうち明けて、さっぱりしたいという気になったのだ。……これだけ云えば
前へ
次へ
全176ページ中127ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング