、こころ[#「こころ」に傍点]という字があるものだけをより出してみたのさ。何でも十四五句あったようだ。みんなは覚えていないが……実際そう胸にぴんと響くのは少いようだね。
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魚鳥のこころは知らず年のくれ
七夕のあわぬこころや雨中天
葉にそむく椿や花のよそごころ
椎のはなの心にも似よ木曽の旅
住つかぬ旅のこころや置火燵
[#ここで字下げ終わり]
その他まだ沢山あったがね、そのうちで僕の心を惹いたのが二つあるよ。
[#ここから3字下げ]
もろもろの心柳にまかすべし
野ざらしを心に風のしむ身かな
[#ここで字下げ終わり]
この二つのうちで、君、文学的に云ってどちらが傑れてるのかね。君は僕よりもこんなことには明るいのだろう……。」
昌作は、禎輔が先日持出した句のことを思い出した。
「あなたの云われるのは、文学的価値ではなくて、思想的価値のことでしょう?」
「そう、思想的価値、先ずそんなものだね。……僕は野ざらしを[#「野ざらしを」に傍点]の方が先達てまでは好きだったものさ。所が其後、もろもろの[#「もろもろの」に傍点]の方が好きになったよ。そして、君を……また自分を、
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