ん》にちょいちょいあそんだのは、禎輔等のそれと違って――禎輔が会社の方の交際でそんな場所に時々足を踏み入れていることを昌作は知らないではなかった――それと違って、比べものにならないほど安っぽい所でだった。而も彼は近来、そんな所からさっぱり足を抜いてしまっていたのである。
「いやに変な顔をするじゃないか。」と禎輔は云った。「酒を飲むのだって仕事をするのだって、結局は同じことだろうよ。どちらも生きてる働きなんだからね。。……だがまあいいさ。それなら、此家《ここ》に上等の葡萄酒があるから、そいつでも飲もうよ。」
禎輔はボーイを呼んで、料理を二三品と、フランスから来たあの上等のを瓶のまま二本ばかり持って来いと命じた。そして、それが来るまで彼はやたらに金口《きんぐち》を吹かして、昌作にもすすめた。昌作もやはり黙ってその煙草を吹かしながら、向うから話し出されるのを待った。が禎輔の言葉は、彼が全く予期しない方面のことだった。
「僕はね、」と禎輔は葡萄酒の杯を挙げながら云い出した。「芭蕉の句集をこないだから読み出してみたのだが、僕のような門外漢にもなかなか面白いよ。そして、ふと馬鹿なことを思いついて
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