は、あなたの秘蔵弟子らしゅうございますわね。しばらく伺わないでいると、風邪でもひいてるのではありませんかと、先生からお便りがあった、そう仰言ってるんですよ。風邪ですって、面白い言い方ではございませんか。それからまた、正月になったら、どこか温泉にでも行きたいと、先生からお誘いを受けた、そうも仰言ってるんですよ。そしてそのあとが面白いじゃございませんか。わたくし、先生とはなんでもないんですけれど、こんなことを申すと、なにか訳があるように聞えますでしょうか……ふふふ、とお笑いなさるんですよ。なにか訳があるように聞えますでしょうかと、ひとにお聞きなさるところが、素敵でございましょう。」
ちょっと面白く出来すぎてる話だった。志村は他の用事で彼女に葉書を書いたことはあった。温泉の話をしたこともあった。然し、房代夫人の話は、面白く出来てる半面、ただ面白いと聞き捨てるわけにゆかないものを含んでいた。
「あ、おかしなことを思い出しましたわ。あなたはしばらく、野田さんの鎌倉の別荘に行っていらしたことがおありでしょう。あすこに、若いきれいな女中がおりましたわね。その女中さんが、あとで、先生はやさしいよいお
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