る者なら、誰でも経験するところであろう。
ハムレットは、父の非業の死を、その亡霊から教えらるる。然し、亡霊を信じない吾々は、それを、種々の状勢から来る疑心の結晶だと考える。がまた、ハムレットは父の亡霊に逢ったのではなくて、そういう夢をみたのだとすれば、更に荒唐無稽の感を深めるであろうか。夢は元来、荒唐無稽なものとされている。けれども、ハムレットのような地位におかれる時、その周囲の事情からして、事情の暗示を夢より得られないと、誰が断言出来よう。ただ困難なのは、かかる夢を、如何にして文芸のうちに書き生かすかである。
夢のこういう解釈は、吾々の知覚能力認識能力の問題にまではいりこむ。そして人の心理機構を、更にも一度見直さなければならない。
祖母からきかせられた初夢の占いが、新らしい意味で私の興味をひくのである。初夢とは限らないけれども、社会的約束から脱しきれずに、正月にはやはり正月らしい心持にさせられて、初夢のことを考えるのである。
底本:「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」未来社
1967(昭和42)年11月10日第1刷発行
入力:tatsuki
校正:田中敬三
前へ
次へ
全4ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング