が、種々の形をとって現れたものだそうである。要するに、識域下にあるものが意識表象として現れてくる形態である。
 それもある。がその他に、吾々の生活の客観的状勢の綜合的暗示を、夢のうちに感ずることがよくある。
 例えば――或る恋人の話によると――愛する人と二人で楽しく街を歩いてる夢をみる。そういう時には、それが如何に悲しみ苦しんでる時期であっても、大抵、嬉しいことの起り得る状態にある時だそうである。夢が前兆をなすのではない。こちらの状態、相手の状態、周囲の事情、それらのものが好転して、而も自分ではその好転に気付かないでいるうちに、夢が真先にそれを示してくれるのである。また、楽しい深い愛に浸っている時に、ふと、非常に悲しい夢をみることがある。そういう時には、自分の状態か相手の状態か、周囲の事情かのうちに、愛を妨げるような事柄が起っている。後でそれが分ってくる。即ち、夢が前兆をなすのではなくて、自分がまだ知らずにいる客観的状勢を、早くも夢が示してくれるのである。
 其他、いろいろな事件に於いて、単に心理的な予感を超えて、客観的事情の認識を夢から強いらるることがあるのは、少しくこの方面に注意す
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