しましたが、ただ声だけで何の姿も見えず、大きな木が化《ば》け物のように立ち並んでるだけでした。そして森全体はやはり、ごーッごーッと唸り続けていました。
王子は恐ろしさに震え上がりそうなのを、じっと押しこらえて、剣の柄《つか》を握りしめながら、一生懸命に叫び返してやりました。
「僕はこの山の下の城の王子だ。森の樫《かし》の木に逢いに来た。どこにいるのだ? 返事をしないか」
すると、「おーう」というほえるような声が一つ、森の唸り声の中から一際《ひときわ》高く聞こえてきました。王子はもう命がけになって、その声の聞こえた方へ、茨《いばら》や葛《かずら》の中を踏み分けて進んでゆきました。
しばらく行くうちに、はるか向こうの方から、ぼーっと薄赤い光がさしてきました。王子はにわかに力強くなって、その光の方へ飛んで行きました。そして、あッ! と叫んだまま棒立ちになってしまいました。
それももっともです。すぐ眼の前に、何千年たったとも知れない、また何の木とも知れない、城のやぐらほどもある大きな木の幹《みき》が、すっくとつっ立っていまして、その上の方に洞穴《ほらあな》みたいな穴がありまして、穴の口
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