ぐらに上って行きました。
ところが、城から山の頂までの半分ほどの所で、今まで王子の前にほの白く続いていた一筋の道が、ぷつりと切れてなくなりました。王子はびっくりしてあたりを見廻しました。どこからさすとも知れぬぼんやりした明るみに透かして見ますと、何百年たったか知れないほどの大きな木がまっ直に立ち並んでいまして、その枝葉の茂みが空をおおいつくしています。ちょうど、大きな円柱の立ち並んだ広々とした部屋の中にはいったようです。しかもその部屋の広さが限りない上に、燈火《ともしび》の光もなく、何の飾りもなく、足下《あしもと》にはじゅうたんのかわりに、名も知れぬ気味《きみ》悪い葛《かずら》や茨《いばら》が、積もり積もった朽葉《くちば》や枯枝《かれえだ》の上にはいまわっています。王子は恐ろしくなって立ちすくみました。
そのうちに、今まで静かだった森が、ごーッごーッと底深い唸《うな》り声を立て始めました。その唸り声の間から、重い鈍い声が四方から王子へ呼びかけてきました。
「誰だ?」
「何しに来た?」
「どこの者だ?」
「どこへ行くのだ?」
「何者だ?」
王子は薄《うす》ら明《あか》りにきっと見廻
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