間に何百里という早さで、どこともなく飛んで行きました。

      三

 王子は一生懸命に鳥の首筋にしがみついていましたが、だいぶたって、鳥がにわかに飛ぶのをやめましたので、恐る恐る眼を開いてみますと、まあどうでしょう。そこは雲の上までそびえ立った高い山の頂《いただき》で、はるか向こうの方に五色《ごしき》の雲がたなびいて、その中からまん円《まる》い太陽がぎらぎら出てくる所です。一面に銀の粉がまき散らされたような空と五色の雲とに、出たばかりの太陽の光がぱっと輝り映えています。あまりの美しさに、王子は我を忘れて眺め入りました。
 しばらくたつと、鳥が一つ羽ばたきをしましたので、王子はまたしっかとその首筋《くびすじ》にしがみつきました。鳥はやはり一時間に何百里という早さで、そして音も立てずに飛んでいって、今度は広い牧場の中の一本の木の上にとまりました。見渡す限りはてもない広々とした牧場で、いろんな花が一面に咲き乱れていまして、草の葉にたまった水銀の露の玉をとばしながら、雪のようにまっ白な羊の群が遊んでいます。
 しばらくすると、鳥はまた一つは羽ばたきをして、王子がその首筋にしがみつくのを待って、やはり一時間に何百里という早さで、別の所へ飛んで行きました。
 そういうふうにして、王子は金色の鳥に連れられて、たくさんの不思議な所を見て廻りました。水の精達が遊びたわむれる河の淵《ふち》をも見ました。蠅《はえ》のような小さな小鳥の国をも訪れました。魔法使いの住んでる洞穴《ほらあな》へも入りました。虹の橋をも渡りました。月の世界へも行きました。天の川へまでも上りました。その一つ一つをくわしく言っていると、いつまでたっても話しきれるものではありません。世にありとあらゆる不思議な所ばかりですもの。皆さん自分で想像してごらんなさい。けれど恐らく皆さんの想像も、その昼から夜へかけて王子が見ました事柄《ことがら》の、千分の一、万分の一にも及ばないでしょう。
 さて、数限りない星が集まって河原の砂となり、青く澄《す》みきった水がゆったりと流れてる、あの天の川を見てしまって、王子がまた金色《こんじき》の鳥の背中に乗ると、鳥は天から地上へ舞い下りてきました。地上へ近づくにしたがって、西の山の端《は》に沈みかけた月の光で、ぼんやり下の景色が見て取れました。今度はどこへいくのかしらと、王子は眼を見張って眺めました。まっ黒な山、山の腹に茂ってる森、森の裾《すそ》にある城、城の前に広がってる野原、野原のまん中にある町……王子は何だか見覚えがあるような気がしてきました。そしてなおよく見ると、それは見覚えがあるどころか、実は自分の国で、森の裾にある城は自分の城だったのです。王子はその城をぬけ出した時から、両親の国王と女王とのことやその他自分の国のことを何もかも忘れていましたが、今眼の下に自分の城を見ると、急になつかしくなって、思わず知らず叫びました。
「あ、僕の城だ」
 そのとたんに、ふと気がゆるんで、鳥の首筋《くびすじ》にしがみついてた手を離したものですから、あッというまに王子は鳥の背中から滑って、まっ逆さまに城の上へ落ちてゆきました。途中で気が遠くなってしまいました……。

      四

 ……ごく遠い所から、何だか聞き馴《な》れた声が自分を呼ぶような気がして、王子はぼんやり眼を開きました。すると不思議にも、城の中のいつもの寝床に寝ているのでした。部屋の中には、国王や女王や侍女《じじょ》達や二三の家来《けらい》が、ぐるりと寝台を取り囲んでいました。王子はびっくりして起き上がりました。それを見て、女王が眼に涙をいっぱいためながら抱きついて来ました。
「まあ、眼がさめましたか。それでも、昨夜《ゆうべ》から一体どこへ行っていました? 私達はどんなに心配しましたでしょう! よく帰って来てくれましたね。でも、黙って帰って来て寝てしまうなんて! どうしたのです? まあ、あなたはまだどうかしてはいませんか」
 母の女王の言うことが、王子にはさっぱり訳がわかりませんでした。それでなおよく聞いてみますと、実はこうだったのです。――昨日の夜中に、寝床の中に寝ていたはずの王子が、ふいにいなくなってしまいました。たった一人の王子がいなくなったのですから、城の中はひっくり返るような騒ぎになりました。城の隅々《すみずみ》はもちろんのこと、近くの野原や街に至るまで、家来《けらい》達が四方八方に手分けして、王子を探し廻りましたが、どうしても見つかりませんでした。夜が明けて、昼間になって、そしてまた夜になるまで、皆は王子を探し廻りましたが、何の手がかりもありませんでした。国王や女王は、悲しみの涙にくれて、泣き沈んでばかりいました。ところが夜になって、夜もふけてから、一人の侍女《じじょ》が、何
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