真直に十間ばかり、そしてまた曲折します。曲折の角度は不整で、三十度、四十五度、九十度、百二十度、などさまざまです。つまり、十間ほどの長さの廊下を、いろいろな角度をもたせて継ぎ足すのです。そしてその各の曲り角に、前の一片から真直にぬけられる扉があり、いつでも外に出られるようになっています。廊下の中は、ぼんやりした薄ら明りです。
 論理の糸口が切れたり、思考の筋途がもつれたり、何か余計なものが場所をふさいでいたりする時、その廊下を歩くのです。誰かの面影が捉え難かったり、誰かの面影が立塞っていたりする時、その廊下を歩くのです。自分のうちの何かが渾沌としていて思い惑う時、その廊下を歩くのです。懐手をし気を安らかにして、歩くという意識も殆んどなく、廊下の続くとおりに進んでゆきます。するとそのさまざまな曲り角に応じて、さまざまなものが死に、さまざまなものが生き上ってきます。これだと思うものを捉えた時に、それを大事に胸に懐いて、扉から真直に外へぬけ出すのです。満腹の時もよいでしょうし、空腹の時もよいでしょうし、酒に酔っていたならば更によいでしょう。
 その廊下は、さまざまな捕捉の、またさまざまな喪失
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