てきて、じっと落着いてることが出来ず、何かをしなければならないが何をしてよいか分らず、当惑しましたね。相当な社会的地位にあるあなたがいよいよ立候補の決心をしたとなると、いろいろ処理すべきことも多い筈でしたが、さて、何をどう処理すべきか分りませんでしたね。あいにく訪問客もなく、さし当って訪問すべき人も見出せず、さりとて、猫を相手に炬燵にあたったり日向ぼっこをしたりするのも、もう出来ないことでした。活動しなければならない身ですからね。
そして、ためらい惑ったあげく、まず墓詣りをしようとあなたは思いつきましたね。これには私も意外でしたよ。然しこの墓参は、ほかに行くところもないし、さりとて何処かへ行かなければならないから、という程度のものであると共に、また、一度思いつけばそれが気持にぴったりときて、あなたの言葉をかりれば、家庭の秩序の一環をなすものでさえありました。
思いつくと同時にあなたはそれにきめて、それからこれは異例なことですが、女中をお伴に連れてゆくことにしましたね。どうしてそんな気になったのか。あなた自身にもよく分らなかったことでしょう。まあ婦人代議士という気分のせいだったでしょ
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