政治の外に生きるとか、そんなことを論じあいましたね。それも親子の愛情を持って、冗談まじりに、そして信昭君の方からいい加減に調子を合せて、謂わば酒の肴にしたのでしょうか。
そして沈黙の合間に、あなたは、冷たい微風に似た寂寥を感じましたね。この点については、私はあなたを尊敬しますよ。
守山未亡人千賀子さん
翌朝[#「翌朝」は底本では「習朝」]、あなたは珍らしく寝坊しましたね。前夜、ウイスキーの酔いが頭にのぼり、またいろいろな雑念が頭にのぼって、なかなか眠れなかった故でしょう。
あなたが起きた時にはもう、信昭君も高木君も出かけていました。そのことを、あなたはちょっと意外に思ったようですが、すぐにその気持ちも忘れてしまいましたね。そしていつもより入念にお化粧をしましたね。それから、立候補のための資格審査の申請に署名をし、秋山さんのところと、党の本部とに、立候補を承諾する電話をかけました。党の本部からは、改めて然るべき人が連絡に来るということで、それで見ても、あなたの社会的地位が相当なものだということが分りますね。
ところが、そこでちょっとあなたは迷いましたね。なにか大きな不安が襲っ
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