、どこかの隅っこに臭気がこびりついており、どこかに空虚な隙間があり、どこかに歪んだものがあり、それが単に肉体的なばかりでなく、精神的にもそうなんです。つまり、真にすっきりとはしていないんですよ。
――未亡人というものには、人知れぬ苦労があります。
それは苦労はありましょうよ。だけど、いったい苦労のない者が世の中にありますか。未亡人というものは、わざわざ余計な苦労を作りだして、自らそれを楽しんでるところさえありますね。性慾のことを言うのではありませんよ。世間に対抗して意地を張るからです。もっとおとなしい気持ちでおればよろしいんですがね。
あなたもずいぶん意地を張りました。その意地が、こんど、代議士とか参与官とかいう空想で、すーっと貫きぬける見通しがついたものだから、つまり前途が開けて障碍がなくなったものだから、あなたはすっかりいい気になって、ちょっと高木君をもてあそんでみたのでしょう。だが、なんというけちな遊戯だったことでしょう。もっと大胆に、或は純粋に、せめて池の蛙ぐらいになったら如何でしたか。
それにしても、高木君は気の毒でしたよ。あなたの大きな乳房の上の方、鎖骨のあたりや肩
前へ
次へ
全22ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング