、どこかの隅っこに臭気がこびりついており、どこかに空虚な隙間があり、どこかに歪んだものがあり、それが単に肉体的なばかりでなく、精神的にもそうなんです。つまり、真にすっきりとはしていないんですよ。
 ――未亡人というものには、人知れぬ苦労があります。
 それは苦労はありましょうよ。だけど、いったい苦労のない者が世の中にありますか。未亡人というものは、わざわざ余計な苦労を作りだして、自らそれを楽しんでるところさえありますね。性慾のことを言うのではありませんよ。世間に対抗して意地を張るからです。もっとおとなしい気持ちでおればよろしいんですがね。
 あなたもずいぶん意地を張りました。その意地が、こんど、代議士とか参与官とかいう空想で、すーっと貫きぬける見通しがついたものだから、つまり前途が開けて障碍がなくなったものだから、あなたはすっかりいい気になって、ちょっと高木君をもてあそんでみたのでしょう。だが、なんというけちな遊戯だったことでしょう。もっと大胆に、或は純粋に、せめて池の蛙ぐらいになったら如何でしたか。
 それにしても、高木君は気の毒でしたよ。あなたの大きな乳房の上の方、鎖骨のあたりや肩
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