のあたりの、脂肪の多い肌にじかに触れ、あなたの髪の香をかぎ、あなたの息を頬に受け、あなたの膝に肱をつき、そしてすっかり萎縮してしまいました。普通なら、それぐらいのことは何でもないんですが、底にロマンチックな憧れがあるものだから、そしてあなたが全身の毛穴を汗ばましてるものだから、打拉がれた気持ちになるのも無理はありません。思いがけない局面になったのです。その局面のなかで、一個の未亡人にぶっつかったのです。彼は慴え縮こまって、黙ってウイスキーを飲みましたね。そして彼が殆んど口を利かなかったのは、あなたにとって仕合せなわけでした。もしも彼が下らないことを饒舌りだしたり、勝手な真似をしたりしたら、あなたはゆっくり玩具を楽しむことが出来なかったでしょうからね。
 あなたの方はもうそれで充分だったでしょうけれど、高木君は可哀そうに、心の置きどころが分らなくなって、ぐずぐずしてるうちに時間を過ごし、泊ってゆくようなことになってしまいました。しかも、あなたからはもう一顧も与えられず、そして散文的な情景が展開されたのですよ。
 信昭が、友人が帰ってからそこへ顔を出すと、また酒の興がまし、あなたもだいぶ飲
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