だ、「浜地君もこんな酒飲の親友を持ってるようじゃあ、余り信用もおけませんね。」
「でもね、」と母も笑いながら云った、「こんなお友達があってもしっかりしてるところは、尚更豪いじゃありませんか。」
 そういう会話を僕は聞き流して、一人で杯を重ねていた。母が吟味してるだけに家の酒はうまかった。酔心地がよかった。そしてつい不調法にも、小唄を口ずさみかけた。だって、いい気持になったんだから仕方がないじゃないか。
 それを兄が聞き咎めたのが初まりで、また例の廻りくどい意見になってきた。が僕は知らん顔をしてやった。それがまた兄の気持を害したらしい。
「つまらないものを二つ三つ書きだして、それで芸術家だと納まり返って、ぐうたらな日を送って、羨ましい身分だね。」
「羨ましけりゃあ、あんなちっぽけな会社なんか止しちゃって、兄さんも芸術家になったら……。」
 兄も少し酔っていた。が僕もだいぶ酔っていた。
「こないだ、お前が書いたものを読まされて、実に恥しい思いをしたよ。そら、何とかいう題の、淫売婦かなんか出てくる小説さ。僕の会社に、あの雑誌を持ってる男がいて、あなたの弟さんだそうですが実に上手だ、とそう云っ
前へ 次へ
全40ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング