二人の間を監視するほど、僕の頭は暇じゃなかった。僕はただお前達二人が仲のよいことだけを知って喜んでいた。或は愛し合うようなことになるかも知れないと、ふと思ってみたこともあるにはあるが、結婚なんてことは僕の考えの範囲外だった。
 母の様子から一寸変な暗示を受けて、僕は俄に追求し初めた。敏子は本当に浜地を愛してるのか、浜地は本当に敏子を愛してるのか、そして二人の愛は深いものなのか、その証拠が何かあるか……。
 母は自分が過でも犯したもののように、視線を落して低い声で云った。
「キスしたことがあるそうですよ。」

 敏子
 お前も馬鹿だね。それならそうと、なぜ早く僕に云わないんだ。勿論僕は何にも尋ねやしなかったし、お前から進んで話せもしなかったろうが、然し、母に打明けたくらいなら、僕にだってすぐ打明けていいじゃないか。お前は僕の平常を知りつくしてるから、僕に笑われるかも知れないと思ったろうが、いくら僕だって、処女の恋愛を否定しやしないさ。母がどんな風にお前を問いつめていったか、それを思うと嫌な気がする。――恥しい想像を許してくれよ。――だが、僕だって母を問いつめていった。汚らわしい好奇心の仕
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