病室の幻影
豊島与志雄
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【テキスト中に現れる記号について】
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(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]く
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広い病室。一方の壁に沿って寝台があり、窓の方を枕に一人の患者が眠っている。少し離れて、二脚の椅子が窓際に並んでいる。他方の壁に沿って、入口の扉に近く、床に二枚の畳敷があり、年若な女と看護婦とが、布団を並べ小さくなって眠っている。次に大きな瀬戸の火鉢があって、洗面器がかかって湯気が立っている。次に窓に片寄せて小形の卓子があり、花籠や果物籠や薬瓶やコップの類が雑然とのっている。窓には白いカーテンが下してある。電灯に黒い紗の覆いがしてあって、室の中は薄暗い。真夜中過ぎの静けさ。窓際の二脚の椅子に、ぼんやり人影が現われる。一人は肥っており一人は痩せているが、どちらも同じ顔立で、同じく小洒の白い寝間着を二枚重ね、同じく小洒の広帯を前に結び、同じく患者の方をじっと見つめている。そして静かな声で話し出す。
A――お前はいつも痩せて悲
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